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Betaの記憶

123回目。『軍隊』の組織に入り込むのは難しい。何か策が必要だ。

124回目。失敗。…お屋敷で過ごした子どもの頃が懐かしい。

125回目。あの時は何も知らなかった。だから世界は平和に見えた。

126回目。本当はそうじゃなかった。『財閥』の教育だけでは学べない事実だ。

127回目。初代は「共生」の未来を願った。今なら、彼の真意がわかる。

128回目。今回も犬死だ。無駄にする余裕はないというのに…。

129回目。勢力間の争いは元を辿れば、遠い昔の因縁から来ている。

130回目。我々『財閥』の「共生」を尊ぶ精神もそこからのものだ。

131回目。…この「悲劇」も元を辿れば、そこに原因が…?

132回目。だとすれば、俺はどう立ち回るべきなのだろうか。想像もつかない。

133回目。いつも未来は予想できない方向へ転がる。考えても仕方ない。

134回目。俺にできることは1つずつ可能性を確かめていくことだけだ。

135回目。外の者が『軍隊』の上層部を動かすのは至難の業だ。

136回目。このまま続行する意味は薄い。アプローチを変えてみるべきだろう。

137回目。とにかく今は情報を集めるべきだ。あらゆる可能性を模索しよう。

138回目。『企業』の『CEO』に接近を試みる。何か情報は得られるはず…。

139回目。『企業』の策略にはめられた。ここも一筋縄ではいかない。

140回目。『政府』。ここから何か得られないだろうか。

141回目。彼らはいつも中立的立場を貫こうとしていた。

142回目。…付け入る隙はあるのかもしれない。

ある屋敷の庭師Adulescentiaの記憶 -はじまりのカスミソウ-

どこもかしこも、眩いほどの白で覆われた大豪邸。

そこは『財閥』を取り仕切る『頭取』のお屋敷だ。

光栄にも、私はそのお屋敷に専属の庭師として招かれた。

私が世話を任されたのは、白いカスミソウと白いユリ。

この広い敷地の中で、それだけを管理するのも一苦労だ。

主である『頭取』はご多忙で、奥様と共に各地を転々としていた。

それゆえ『頭取』は、いつもお屋敷を留守にしていた。

その代わり、お屋敷には『頭取』のご子息が住んでいた。

なかなか時間を作れない『頭取』は、ご子息のために

お付きの世話係を雇って、彼の身の回りの世話をさせた。

ご子息は不思議なほどに、おとなしい子供だった。

わがままも言わず、人の迷惑になることはしないのだ。

その上、彼はめったに感情の起伏を見せなかった。

彼の感情を見て取ることは、世話係でさえ至難の業だ。

…ある日、私が花の世話をしていると、彼が話しかけてきた。

花の名前を聞かれたので、私は「カスミソウです」と答えた。

ご子息は満足そうに、「そうか」とだけ言って立ち去った。

それから度々、彼はカスミソウを気にかけて私の元へ来た。

晴れた日には私がカスミソウの世話をする様子を見学し、

雨風の強い日が続くと「カスミソウは?」と心配そうに尋ねてきた。

私から彼に初めて声をかけたのは、そうしてしばらく経った頃。

「この花が気に入ったのですか?」と尋ねると、彼はこくりと頷いた。

私は次第に、彼に深いいたわりの心があると気がついた。

ただ利口なだけでなく、実は豊かな心の持ち主なのだ、と。

ご子息の元には、ある可愛らしい少女が定期的に訪れた。

歳は彼と同じくらいで、身なりや立ち居振る舞いから

『頭取』と交流のある名家の娘だろうと推察がついた。

ご子息と少女は、不思議と波長が合ったようで、

私が見かけた頃には、お二人はすでに打ち解けた様子だった。

そして驚いたことに、普段は感情の起伏を見せないご子息が、

その少女との時間だけはあどけない笑顔を見せていた。

このお屋敷のように白く清らかで、混じり気のないお二人の笑顔。

私はそれを見たとき、得も言われぬ幸福な気持ちに包まれた。

私はお二人が、この先もずっと穏やかに過ごせるようにと願う。

もしそれを庭師として支えられるのなら、それ以上の幸福はない。

ハッカーDeviceの記憶

俺は、脳幹に接続ケーブルを挿した状態で寝転がっていた。

街の監視カメラから、警備対象のビルの周辺を眺めているんだ。

視界の右下には、電子空間にある「防壁」の状況が映っている。

近年、機密データの盗難が増えている。フリーのハッカーだった俺は

警備会社から監視の仕事を引き受けて生計を立てていた。

『財閥』から出稼ぎに来て間もない頃は信用されていなかったが、

コツコツ真面目にやってきたおかげで最近は依頼も増えてきた。

警備対象のビルの中に入っているのは、医療品の卸売業者らしい。

ビルのネットワークには絶対に入らず、

もし侵入者がいたら、何もしないで知らせるように言われていた。

郊外のベッドタウンから、無人特急と無人タクシーを乗り継いで、

疲れ果てた顔の社員たちがやって来る。

…最近では宇宙に居住区が完成したとニュースになったが、

この星の退屈さはどんな時代になっても変わらない。

俺は妙なものを見た。男が、社員証をかざさずにビルに入ったのだ。

俺は雇い主の手を煩わせたくなかったから、

その男の脳幹を電子空間からジャックして、捕まえようと思った。

男が侵入したビルにはネットワーク防壁がつけられていたが、

一流ハッカーの俺にとってはオモチャみたいな代物だった。

…なぜかビルの中には、いるはずの社員が1人も存在しなかった。

信じられない話だが…まるで幽霊が、姿を消してしまったみたいに。

内部記録があったので見ると、例の男や社員たちの情報を見つけた。

だがその正体は、電子空間上に投影されたホログラムだった。

不審な無人のビルを、人間がいる普通のビルに見せかけるために、

一般には知られていない最新技術をわざわざ使っていたらしい。

社員証をかざさなかった男は、新技術にはつきもののバグのようだ。

わけがわからず戸惑っていると、俺はあるファイルを見つけた。

それは、このビルの地下で行われている実験の画像だった。

…大勢の人間が、ガスのようなものを吸わされて苦しむ様子。

俺なんかが見たらいけないような、そんな世界の闇に潜む「何か」。

俺が警備していたのは、ただの卸売業者ではなかったらしい。

俺は急いで、この国から姿を消す準備を始めた。

俺が自宅の扉を開けて外に出ると、見知らぬ男が立っていた。

男は俺に銃口を向けた。…それが最後だった。

ワイナリーFragranceの記憶

私は子供の頃、運命的な出会いをした。

父がワイナリーのブドウ畑を見学させてくれた時、

内緒でテイスティングをして、その味に惚れたのだ。

学校を出た私は、憧れだったワイナリーに就職した。

ブドウ畑が広がる中で、自慢のワインを振る舞う毎日。

…だがそんな日常は、時代の変化に蝕まれていった。

『財閥』によって、天然の食料が徐々に禁止されたのだ。

最初の変化は、おつまみが人工サラミに変わったこと。

その後はソーセージ、そしてジャムと続いていった。

見た目は同じでも、人工の食料はどこか味が変だった。

一度、人工食料の工場を見学させてもらったことがある。

『世界樹』の力で生み出された人工細胞を培養し、

肉から野菜までいろんな食べ物を生産しているらしい。

培養液の中で、肉の切り身がピクピクと動く光景。

私は食欲が失せたが、意見を言える空気ではなかった。

表向きは「資源の有効活用で食料問題を解決するため」とか

「人工食料の方が健康にいいから」とか言われているけど、

『財閥』は何かを隠しているような気がしてならない。

他の人たちもこの違和感に気付いているようで、ネットには様々な噂がある。

…そして、ワイナリーから本当のワインが消える時が来た。

『財閥』の指導で、人工ワイン工場の建設が決定した。

ワイナリーのブドウ畑は更地にされ、白い生産ドームができた。

中に入ると、不気味なほど清潔な空間が広がっていた。

生産に必要なのは、人工細胞と水と電気だけ。

ブドウの果肉にも、発酵にも、自然の力は必要ない。

私は最初、そんな人工ワインを嫌悪した。

だが飲むと、味は物足りないが、悪くはなかった。

当然、ワイナリーの客に出すワインは人工の物になった。

客たちはなんの不満も漏らさず、通のような顔で嗜んでいる。

ワイナリーの周辺では開発が進み、植物を見なくなった。

一度、同僚が果樹を植えようとしたら、憲兵に逮捕された。

植物を育てることすらも、違法になってしまったらしい。

それから5年後…ある生物学者が客としてやって来た。

その学者は以前品種改良の研究をしていたが、

『財閥』のせいで打ち切られてしまったらしい。

かつてここに広がっていた美しいブドウ畑の話で、

私と学者はひとしきり盛り上がった。学者は帰り際、

貴重なブドウの種を1粒くれた。この種を育てることは

禁止されてしまったが、かつての思い出として差し上げようと…。

だがどんな法律も、私の思いを止めることはできなかった。

私はかつてのブドウ畑の光景を期待して、1粒の種を自宅の庭に植えた。

3日が経ち、3か月が経ち、やがて3年が経った。

大事に世話をしたが、結局芽が出る気配はなかった。

その時、私はやっと世界の真実に気づいた。

私たちが生きるこの星は、もう以前のような

自然の育つ恵みの大地ではなくなってしまったのだ。

知らない間に環境破壊によって土が変質し、

ブドウや植物が育つ場所ではなくなっていたのだ。

私は、『財閥』が人工食料の開発を進めていた理由を悟った。

自然が破滅した後も、人類が生きる道を探っていたのだ。

植物を育てるのを禁じたのも、地球が荒廃していく事実を

民衆から隠すためだったのだろう。

ワイナリーの外には今、たくさんの生産ドームが並んでいる。

最近では、1滴で湖を塩湖に変える薬品が開発された。

生物ではない塩すらも、人工的に生産する予定らしい。

変革は進み、やがて人類は飽食の時代を迎えるだろう。

『財閥』によって、人々がなんの事実も知らされないまま…。

…でも私は、時々夢に見る。青空に広がるブドウ畑を。

私は、かつて憧れだったワイナリーに辞表を出した。

どんな環境でも実をつけるブドウを作るために、

あの日会った学者から、品種改良の知識を学ぼうと決意した。

医師Hepaticaの記憶

『財閥』が他の勢力に比べて、圧倒的に優れているもの。

その1つに「医療技術」がある。現在の『財閥』には

確認されているほとんどの病を治す術があると言われている。

病弱な両親の元に生まれた私は、幼少期に「不治の病」を

患った。それは当時「治療は不可能」とさえ

言われている病で、延命をするのにもお金がかかった。

両親は私を見捨てることにした。3人で暮らしていくだけの

お金もない家庭だったので、それは仕方のないことだった。

幸運にも私は『財閥』という組織に拾われることとなった。

『財閥』の医療技術は当時から最先端をいくもので

数年で「不治の病」の治療法を発見すると、

私の体を蝕んでいた病魔を完全に取り除いてみせた。

私は、自身を助けてくれた『財閥』に恩返しするため、

また過去の自分のような境遇にいる子供たちを救うために

医師を志すようになった。『財閥』の教育プログラムを受け

学校を一番の成績で卒業した私は、試験に合格し、

晴れて医師になることができたのだった。

医師となり病院に勤めていた私の元に、ある日

1人の少年が運ばれてきた。彼の体はあの頃の私と

同じように、未確認の新しい病に蝕まれているのだった。

「大丈夫。『財閥』の医療は世界一なんだから、

あなたの病気もきっと治る。私が保証する」と彼に話した。

少年は精いっぱいの笑顔を見せてくれた。

しかしその1か月後、少年は帰らぬ人となった。

結局、少年の病は最後まで原因不明のままだった。

医師の同僚は「手の打ちようがなかった」と話した。

自分の無力さを知らしめられた。結局のところ

医師である自分ができることは限られている。

治療法のない病の前では、私たちは何もできないのだ。

本当に人を助けたければ、何か発明が必要だと思った。

この世界から「病気」というものを根絶やしにする、

革新的な発明が…。この日から私の

『霊薬開発研究』が始まったのだった。

孤児Sonの記憶

物心がつく頃には、僕は孤児院の中にいた。

「お前の両親は2人とも戦争に巻き込まれ、

若くして亡くなったのだ。」先生は僕にそう話した。

孤児院での暮らしは孤独で退屈な日々の連続だった。

けれど、そんな僕の人生も報われる時が来た。

ある日、孤児院に、背が高くて身なりのいい

大人の人がやってきた。その人は僕たちを見るなり、こう話した。

「今日から僕が君たちの新しいお父さんになる。

君たちはここを出て、新しい家で暮らしてもらうよ」

あの日、僕たちに新しいパパができたんだ。

僕たちの新しいお家は『財閥』というところにあった。

孤児院にいたみんなが寮のような場所に引き取られ、

集団での生活が始まった。『財閥』は僕たちのような孤児を

たくさん引き取っているようで、寮は他の人種の

子供たちでいっぱいだった。こんなに賑やかなところは初めてだった。

『財閥』は僕たちに勉強をさせてくれた。

寮の子供たちは20人くらいのクラスに分けられて

授業を受ける。授業の内容は文字の書き方・読み方から

計算の仕方、『財閥』の歴史や生き物の特徴など、

先生たちは僕の知らない世界のことをたくさん教えてくれた。

10日に1度行われる『テスト』で、良い点を取ると

先生たちが褒めてくれた。この『テスト』で何度も

良い成績を取ると『特進クラス』に行けるらしく、

寮のみんなは張り切って勉強していた。

でも『特進クラス』は、この寮から遠く離れた別の場所にある。

だからその人は、ここを出ていかなくちゃいけない。

せっかく勉強を頑張ったのに、寮を離れなきゃいけないなんて

なんだか寂しいなと思った。僕はずっとここにいたい。

ここにはおいしいご飯も、たくさんの本も

優しい大人たちもおしゃべりな友達もいる。

『財閥』は僕にとって本当の家のようなものだった。

語り部Liberの「浮遊大陸伝承」

私たちの『先祖』は、はるか昔に『浮遊大陸』から

遠く離れた『ふるさと』という場所で生まれました。

『先祖』たちは何万年もの長い間、『ふるさと』で生活を

続けてきました。その長い歴史の中で、いくつもの発明を

生み出し、自分たちの生活を豊かにすることで

『先祖』はその数をどんどん増やし、発展していきました。

ところが数が増えていくにしたがって、『ふるさと』の

限りある土地や資源はどんどんやせ細っていきました。

ついには『ふるさと』に豊富にあったはずの水や木、

ガスや鉱石などが全て、取り尽くされてしまったのです。

「『ふるさと』での生活は限界が近いのかもしれない」

「このままでは私たちは『ふるさと』とともに滅びてしまう…」

そう考えた『先祖』たちは、『ふるさと』に代わる

自分たちの新しい「住み家」を探し始めました。

その先頭に立っていたのが、『救世主』様です。

長く険しい旅を経て、ついに『救世主』様と『先祖』たちは

この空に浮かぶ『浮遊大陸』を発見したのです。

『浮遊大陸』はまるで楽園のような場所でした。

森に湖、山に平原、獣や魚、そしてそれらを

見守るように天高くそびえたつ『世界樹』…。

『浮遊大陸』には私たちが豊かな生活を送るために

必要なものが、すべて最初から用意されていたのです。

『先祖』たちは『浮遊大陸』そのものが、自分たちを助けるための

天からの恵みなのだと考え、空に深く感謝しました。

『救世主』様が『浮遊大陸』に降り立ってから

間もなくして『転移装置』が発見されました。

これは不思議な力により『浮遊大陸』と『ふるさと』の

行き来を、一瞬で行えるようになる物でした。

『救世主』様はこれを活用し、多くの人々を

この『浮遊大陸』に連れてきました。

『ふるさと』から『浮遊大陸』に移住しようとしたのは

私たち『普人』だけではありません。その中には

実に多種多様な人種の姿があったのでした。

『救世主』様は喜んで彼らを受け入れました。

「我々は今こそ手を取り合って生きるべきだ。」

『救世主』様はそのような他者を思いやる美しい心をお持ちでした。

『救世主』様の優しさに触れた多くの人々は、

『浮遊大陸』では人種の垣根を越えて、

お互いに支えあって生きていくことを誓ったのです。

こうして『浮遊大陸』での私たちの暮らしが始まりました。

『浮遊大陸』での生活は手探りの状態から始まりました。

食べ物や飲み水の確保から、薬にするための植物探し、

家を建てるための木材集め、そして『世界樹』から

発生する不思議な力の使い方など、人々は協力しながら

『浮遊大陸』の探索を進めていきました。

ですが元々生きるために必要な物のすべてが揃っていた

『浮遊大陸』ですから、人々がここでの暮らしに

慣れるのには、それほど時間がかかりませんでした。

人々が『浮遊大陸』での暮らしに慣れてきたある時、

とある人種と人種の間で資源をめぐる争いが起きました。

『救世主』様は初めから、それぞれの人種の間にある

「わだかまり」を気にかけていました。それは人々が

『ふるさと』で暮らしていた頃からのもので、

とても根の深いものでした。その争いは

『救世主』様が間に入ることですぐに解決しました。

けれども、このような争いは、今後、何度も起こるだろうと

『救世主』様は考えられて、頭を悩ませていました。

すると、とある者が『救世主』様に助言をしました。

「すべての『浮遊大陸』に生きる人々を

1つの場所にまとめようとすれば、争いが起こるのは

当然のことでしょう。そこで私にアイデアがあります。

『浮遊大陸』をいくつかの『国』に分けるのはどうでしょう?」

『救世主』様は平和のためにはそれがいいかもしれないと考えました。

『救世主』様はそれぞれの人種の生き方を尊重して、

また『ふるさと』で暮らしていた頃のやり方を真似する形で、

新しく6つの『国』を作り出しました。

『浮遊大陸』の人々は、自分の考えや生き方によって、

自分の『国』を決めることができたのです。

そして6つの『国』には、それぞれ1本ずつ

『世界樹』が割り振られました。それまでは

『救世主』様によって管理されていた『世界樹』ですが、

『国』が作られてからは、それぞれの『国』の『代表者』が

『救世主』様に代わって、世界樹のお世話をすることになりました。

これにより、今度こそ『浮遊大陸』は

争いごとのない理想的な場所となるはず…、でした。

ところが、この『国』が作られたことによって

『救世主』様が『浮遊大陸』で目指していた

「人類が手を取り合って生きる」という未来像は

もろく崩れ去っていくこととなります…。

それぞれの『国』に分かれた人類は『世界樹』の

圧倒的な存在を間近で知ることとなりました。

そして、この『世界樹』さえあれば、他の人々と

手を取り合って生きなくとも、自分たちの力だけで

生活できるのではないか、と考えついてしまったのです。

「こんな素晴らしいものを『救世主』は

俺たちから取り上げて、独り占めしていたのか」

各『国』の『代表者』たちは自分たちの世界樹を

外の『国』から守るために、交流を段々と減らしていきました。

「もう誰にもこの『世界樹』を渡さない」

こうして『世界樹』と『国』の存在により

『救世主』様の理想は崩れていき、『世界樹』を

独占するための争いが始まっていったのです。

情報誌記者Weeklyのメモ

『企業』を代表する超巨大企業、『ニコラ』。

今でこそ、その名を知らぬ者はいないほどの一流企業に

成長した『ニコラ』だが、数十年前までは零細企業だった。

私はとある情報筋から『ニコラ』の内部情報を

得ることに成功した。『ニコラ』はどのようにして

現在の地位を築いたのか、その軌跡をここに記しておきたい。

設立当初、『ニコラ』は機械部品やエネルギーの生産、

その周辺のサービスを手掛ける企業であった。

ある時、『ニコラ』の『CEO』は世界樹から

漏れ出る不思議な力の解析に成功、それらをエネルギーに

変換するための「エンジンパーツ」を発明した。

それまでの常識を覆す「エンジンパーツ」の存在は

瞬く間に世界中に広まり、『ニコラ』は一躍

『企業』を代表するような巨大企業となった。

「エンジンパーツ」によって一時代を築いた『ニコラ』。

しかし『CEO』はこれだけでは飽き足らなかった。

さらなる富と力を求めて、『ニコラ』は有名企業の買収を

始めたのである。『ニコラ』の資本力を前にして、

抗うことのできる企業は数えるほどしかなかった。

当時、『企業』を牛耳っていた豪商スティーヴの『グレープ』、

世界中の情報をあまねく一元化することに成功した

『センティリオン』などはその難を逃れたが、

多くの有名企業は『ニコラ』に吸収されていった。

そして『CEO』は買収した企業の役員のほとんどを切り捨てていった。

「『ニコラ』は理想的な未来を創造する企業だ。

そのためには変化を受け入れなければならない。」

一見、冷酷非情にもとれる、『CEO』のこの采配だが

有識者は「彼こそこの世界を変えうる人間だ」と称賛の声を上げた。

『ニコラ』は今、大きな力を持つ2つの他勢力を

相手にとって、大きなビジネスを展開している。

その2つの勢力というのが『軍隊』と『大学』である。

この2勢力の間には遠い昔からの因縁があり、

見えないところで小競り合いを続けていたのである。

『CEO』はこの2勢力の関係性に目を付けた。

一方の勢力が力をつければ、もう片方は、それに追いつこうとする…。

この競争が激化すればするほど、企業にとってはまたとない

商機となる…。そう考えた『CEO』は『ニコラ』の

製品や開発力を2勢力に売り込んだ。そして

『CEO』の目論見通り、『軍隊』と『大学』の

代表者たちは、両者とも商談のテーブルに着いたのだった。

『ニコラ』は現在、『軍隊』に「新兵器」を売り、

『大学』には開発力や人材を提供している。

強大な勢力と太いパイプをつないだ『企業』は

双方から資金を吸い上げて、またしても

巨万の富を得ることとなったのである。

このように『CEO』は、持ち前の頭脳、技術、したたかさ、

そして時代の流れを見切ったその慧眼によって、

『ニコラ』を巨大企業に成長させた。これらの内部情報は

『企業』内のみならず、他勢力にとっても

非常に重要なものになるだろう。扱いには気を付けたいところだ。

 

浮遊大陸探索部隊第四班隊長Navigatioの手記

もうダメかもしれない。浮遊大陸探索部隊第四班は

汚染地帯に囲まれ、完全に退路を断たれてしまった。

助かる見込みは、ないといっていいだろう。

一度『キャラバン』に帰還し、態勢を立て直すべきだった。

『死の汚染』は異常なスピードで広がりを見せており、

想定をはるかに超える範囲の土地に魔の手を伸ばしていた。

私はそんな不測の事態にもかかわらず、探索隊に前進を命じた。

「このままでは移住計画は間に合わない。」

いつの間にか、そんな焦りに支配されていたのだろう。

この状況を招いたのは班長である私の責任だ。

第四班の皆は、この状況下でも誰一人取り乱すことなく

この窮地を脱するための手立てを模索している。

そうだ。我々探索部隊は優秀な人間の集まりだ。

このような緊急時を想定した訓練も積んできた。

もしかすると、まだ何か打つ手があるかもしれない!

…本当は、もうすべて無駄だとわかりきっている。

私たちはここで死ぬ。これは避けようのない運命だ。

手持ちの『浄化ワクチン』も、もうじき底を尽きる。

残された時間は一週間といったところだろうか。

今の我々にできることと言えば、一日一日

確実に迫りくる死をただ待つのみである。

考えてみると、私のこの長い人生において

本当の意味での安らぎを得られた時は

一瞬たりともなかったのではないかと思う。

私たちのフロンティアでの生活は、

いついかなるときも『死の汚染』に脅かされ続けていた。

…しかし、「あの時」だけは違った。

天から希望がもたらされた、「あの時」。

「あの時」だけは、皆がその恐怖を忘れることができた。

救世主様がフロンティアに生きるすべての人類にむけて

演説を行った「あの時」、すべてが一変したのだった。

「先刻、第一世代からの通信を受け取った。

空に浮かぶ理想郷『浮遊大陸』を探せ、とのことだ。

この『浮遊大陸』こそ、汚染から逃れるための唯一の方法かもしれない」

フロンティア中が歓喜に沸いた。それからほどなくして

浮遊大陸探索本隊『キャラバン』は立ち上げられたのだった。

『キャラバン』は第一世代からの通信にあった『浮遊大陸』の

捜索のために立ち上げられた3000人ほどのコミュニティである。

探索部隊はさらにそこから分離して、フロンティアの各地を回る

精鋭部隊になる。全16班、8人組のチームで構成されており

人員は主に元兵士の者を中心に集められた。

かつてコロニーで兵団の分隊長をしていた私は

救世主様から直々に第四班班長に任命された。

身に余る光栄であった。この任務に身を捧げる覚悟だった。

私は『浮遊大陸』を見つけるために、このフロンティアで

生を受けたんだ。本気でそう思うほどであった。

我々、浮遊大陸探索部隊は瞬く間に

フロンティアに生きる者たちにとっての希望の象徴となった。

皆が汚染に脅かされることのない暮らしを

もう一度、思い描いた。鬱屈としていたフロンティアに

一筋の光が差し込んだかのようであった。

『キャラバン』を発つ日、救世主様はこうおっしゃった。

「『浮遊大陸』は神が作りし箱舟に違いない。

人類はここで滅びるべきではないという思し召しだろう」

そうだ。ここで人類の歴史を絶やしてはならない。

『死の汚染』という未曽有の危機に瀕しても

人類が「生」を諦めなかったことには

きっと意味があるはずだ。『浮遊大陸』に到達すれば

我々はもう一度やり直すことができる。

救世主様の言葉を胸に抱き、フロンティア中の期待を背負って

浮遊大陸探索部隊は『キャラバン』を発った。

…しかし、我々がその希望に到達することはなかった。

探索部隊の他の班はどうだろうか。何か『浮遊大陸』に

迫る手がかりを得ることができたのだろうか。

今になって思う。『浮遊大陸』なんてものは

初めから存在しなかったのではないか、と。

フロンティアの人間に希望を持たせるために

救世主様が作った、おとぎ話だったのではないか、と。

やはり、『死の汚染』の脅威から逃れることは

不可能なのだ。あれに適応できない我々は

どうあがいても、滅びる道以外ないのだ。

『死の汚染』は、もう目を背けることができないほど

すぐ近くまで迫ってきている。覚悟を決めなくてはならない。

…私には『キャラバン』に残してきた家族がいる。

彼女たちは今も『浮遊大陸』の存在を信じて疑わず、

私の帰りを待ち続けていることだろう。

ああ、どうか、彼女たちの最後は、

汚染の恐怖に怯え続けてきた人生の、その最後だけは

どうか穏やかに迎えられるよう願っている。

兵士Peacockの記憶

『軍隊』という組織は、大きく2つのグループに

分けることができる。角人か、そうではないか、だ。

角人として生まれた場合、人生はいたってシンプルになる。

ただ命令に従う。求められるのはそれだけだ。

俺たちは、戦争をするために生まれた「兵器」だ。

補佐官Collegaの記憶

今日は俺にとって記念すべき1日になるはずだった。

俺が『財閥』の次のリーダーに任命されると信じていた。

だが『頭取』は、俺ではなく奴の名を呼んだ。

『頭取』を支えてきた俺より、自分の息子のほうが適任らしい。

…そんなこと、納得できるわけがない。

そして、俺は奴の補佐官に任命されてしまった。

奴は言った。「『頭取』の思想を継ぎ、共生の世界を作る」と。

皮肉にもそれは、俺が『頭取』に何度も反対していた思想だった。

奴の理想主義には呆れてものも言えない。

「共生」なんてものは前時代のきれいごとだ。

そんなものは未来永劫、実現させることはできない。

この激動の時代を生き抜くためには、利を取るしかない。

このまま奴に任せていては、『財閥』は疲弊していく。

しかし説得したところで奴は考えを変えないだろう。

『財閥』のリーダーの地位を明け渡すとも考えにくい。

だから方法は1つしかない。奴を殺すのだ。

そして俺が、この『財閥』を覇権へと導くんだ。

奴の暗殺計画は決行すらできず、失敗に終わった。

完璧な計画なはずだったのに。奴はすべてを見通していた。

俺が首謀者であることもバレてしまった。

奴は「なぜこんな計画を立てたのか」と尋ねてきた。

だから俺は我慢してきた想いすべてを叫んでやった。

「国のためには、弱い者は切り捨て、他国を出し抜く。

どこの国もやっている。今はそんな時代だ。

「共生」なんて馬鹿げている。現実的になるべきだ。

俺ならできた。『財閥』をもっと大きく、強くできた」

俺は死刑になるだろう。後悔と無念で涙が止まらなかった。

しかし奴は言った。「あなたは僕にないものを持っている。

今後も僕を支えてほしい。『財閥』と世界を想う友人として」

重罪人であるはずの俺は許された。奴に助けられたのだ。

これも奴の言う「共生」の1つの形だとでもいうのか。

今日は他勢力から亡命した人々の保護施設を視察した。

出会う人はみな奴に頭を下げ、感謝を伝えていた。

奴の補佐官に就いてから、こんな光景を何度も見てきた。

その度に、不思議な気持ちになる。今までの自分が

正しいと思ってきたことを否定されるような感覚。

だが、不快感はない。むしろ…いや、やめておこう。

『財閥』は、もっと強い組織でいなければならない。

奴の理想、「共生の世界」を実現するために。

それをサポートするのが、『御曹司補佐官』の俺の仕事だ。

傭兵Assaultの記憶

いくらウイスキーを飲んでも、俺は酔える気がしなかった。

機械の肝臓がアルコールを瞬時に分解するおかげで、

本当は閉じていたい鋼鉄の眼球は、忌まわしいほど冴えている。

俺の体で唯一の生身の臓器…脳だけが、憂鬱に沈んでいた。

俺たち傭兵は、生みの親である民間軍事会社の指示に従い、

市街地にも、砂漠にも、極寒の地にも向かう。

施設の防衛とか、要人の警護とか、仕事はいろいろあるが…

一番多いのは、指示された人間を、指示された手順で殺すことだ。

詳しくは知らないが、民間軍事会社に一番仕事を頼む顧客は

『政府』なのだという。自分たちの手を血で汚さずに、

中立の立場を保つため、俺たちに面倒事を回してくるらしい。

それに俺たちなら、いくら手足が吹っ飛ばされても問題がない。

俺たちの身体は、金で作れる「消耗品」だからだ。

金にすらならないような生身の奴らが、よく言うもんだ…

なんて口にした日には、遠隔操作で機械の心臓を止められるだろう。

俺はウイスキーと一緒に、叫びたい気持ちを飲み込んだ。

比較的マシな、静かな夜だった。だがそれも、出撃ラッパの音で終わる。

俺たち傭兵は整列して、出撃のために輸送挺へ乗り込んだ。

次も手順通り、ただ殺すだけだ…。俺は自分に言い聞かせる。

まだ機械になりきれない自分の心を呪いながら、戦場に向かった。

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